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乾式研磨法

灰長石巨晶を偏光顕微鏡を使わずに見る

 

北海道から東北・関東を経て鳥島に至る火山フロントに沿い、長径数センチメートルにも及ぶ灰長石の巨晶をもった塩基性火山岩が噴出している。北海道登別の倶多楽火山と伊豆の三宅島では、結晶火山弾として放出された灰長石が火山砕屑岩層に含まれており、美しい自形結晶が比較的容易に採取できる。八丈島の灰長石巨晶は溶岩流に封じ込められており、無傷の自形結晶を分離することは難しいが、自然銅や酸化鉄を含んで赤く着色しており誠に美しい。研究者はもとより市民地学ファンも魅了する、灰長石巨晶である。

これらの巨晶には、

1.化学組成が灰長石の端成分に近く、内部は組成累帯がほとんどない。

2.アルバイト双晶(双晶軸がb軸で接合面が(010))、ペリクリン双晶(双晶軸がb軸で接合面が菱形断面)、カールスバッド双晶(双晶軸がc軸で接合面が(010))のいずれも普通に見られる。

3.溶蝕を受けて丸味を帯びたかんらん石を包有する。

等の共通した特徴がある。

 

このような巨大灰長石を育むマグマ溜まりのプロセスは、長年にわたり多くの研究者の関心を集めてきた。巨晶内のミクロ組織を観察するために、偏光顕微鏡は強力な武器であった。高倍率の観察には、頑丈なフレームと高性能対物レンズを備えた偏光顕微鏡が欠かせないが、その前段階に行うべき低倍率観察では偏光フィルムとデジタルカメラが役に立つ。等倍マクロレンズを使うと、通常サイズの薄片の全視野を、縁に多少のゆとりを残してセンサー上に結像させることが出来る。灰長石巨晶の全体像を一枚の大型プリントにすれば、疲労なく長時間眺め続けられる。灰長石巨晶との心理的距離感が縮まり、新たな発見につながるかもしれない。

 

 

 

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画像は、結晶の差し渡しが1.8cmで、中心付近にワインレッドの着色が認められる灰長石である。通常の厚さの薄片に仕上げ、2枚の直線偏光フィルムで挟んだ状態で等倍マクロレンズ付きデジタルカメラで撮影したもの。試料は、東京都八丈島の東山先カルデラ成層火山の玄武岩溶岩流の斑晶で、南海岸の石積ガ鼻から採集された。 貴重な試料をご提供頂いた井上裕貴氏に感謝します。

 

複屈折が小さい灰長石は明暗のグレー、高いかんらん石は黄色、青、紫など鮮やかな干渉色を示している。カールスバッド双晶の”握手パターン”を見やすい方向に切断している。左上から右下につながる明るいグレーのエリアと、それと斜交して右上から左下に向かう暗いエリアが、カールスバッド式の方位関係をもって接合した単結晶である。それぞれの領域に見える細かい平行な縞模様はアルバイト式などの集片双晶である。灰長石中で結晶面に平行に、淡くかすかな筋が見えている。筋は微細な点描であり、点の一つ一つは、結晶成長の境界面に捕獲されたメルトや流体包有物である。

 

双晶の接合面とも斜長石の劈開面とも異なる、不規則な罅が結晶の表面から中心まで貫いて発達する。流動しながら粘性を高めてゆく溶岩流の中で翻弄される大型結晶には様々な方向の圧縮力が作用していることを物語る。結晶火山弾としてメルトから分離し、衝撃を吸収するスコリアの上に落下した灰長石に罅が少ないことは好対照である。

 

大型の単結晶を薄片にする場合、わずかな厚みの相違が干渉色の濃淡や色相の違いとなって可視化されるため、製作工程で厚みの均一性をいかに確保するかが課題となる。 この画像にとらえられた、カールスバッド双晶の単位が縁から縁まで同じ干渉色を示すことから、この薄片の厚みが均一であることがわかる。

解説・写真撮影:産総研名誉リサーチャー 青木正博